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東京地方裁判所八王子支部 昭和50年(ワ)1145号 判決 1976年11月29日

原告

五十島達男

ほか二名

被告

沼山悌二郎

ほか五名

主文

被告沼山悌二郎、同木田正勝は各自原告五十島達男に対し金三三万四五三八円、原告五十島禊四郎に対し金一万九五三〇円、原告五十島千代子に対し金九万七六五〇円およびこれらに対する昭和四八年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告沼山悌二郎、同木田正勝に対するその余の請求およびその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告と被告沼山悌二郎、同木田正勝との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告とその余の被告らとの間においては全部原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、かりに執行できる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは各自原告五十島達男に対し金五六万円、原告五十島禊四郎に対し金三万一五〇〇円、原告五十島千代子に対し金一二万六〇〇〇円およびこれらに対する昭四八年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一  事故の発生

昭和四七年七月五日午後三時五五分ころ、東京都府中市是政五丁目一八番地の一九に隣接する多摩川ぞいの道路上で、被告沼山悌二郎運転のバイク(排気量五〇〇CC、府中府い五八八号、以下「加害車両」という。)と右道路を横断中の原告五十島達男(昭和四四年六月七日生)とが衝突し、同原告が傷害を負つた。

二  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告沼山悌二郎は、右道路で加害車両の運転を練習していたものであるが、当時、右道路に隣接する空地で数名の幼児が遊んでいるのを認識しながら、右空地の囲障には道路へ出る出入口がなく、したがつて、同人らが道路に進出することはないものと速断して、制限時速四〇キロメートルの右道路を時速約五〇キロメートルで走行し、かつ、前方に対する注視を怠つたため、右出入口から道路に進出した原告五十島達男の発見が遅れ、よつて同人との衝突を回避することができなかつたものであつて、本件事故の発生につき過失があつたから、不法行為者として、民法七〇九条の責任。

(二)  被告沼山智興、同沼山優美子は、被告沼山悌二郎の父母であり、当時一六歳の同被告が加害車両を運転する運転免許を持つていることを知つており、友人の車両を借りて道路上で運転するかもしれないことを予見していたのであるから、かかる場合、親権者としては未成年者である同被告に対し、車両を運転するにあたつては交通法規を遵守し、事故の発生を未然に防止すべき義務を尽すよう指導監督すべき注意義務があるのに、これを怠り、右指導監督を尽さなかつたため、同被告において速度違反、前方不注視の過失を犯し、よつて本件事故を発生させたのであるから、いずれも不法行為者として民法七〇九条の責任。

(三)  被告木田正勝は

1  加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条の責任。

2  友人の被告沼山悌二郎が前記のような情況の下で加害車両を運転し、前記空地から道路に進出する原告五十島達男ら幼児に被害を与える可能性のあることを認識し、もしくは過失によつてこれを認識せずに、事故現場で加害車両を同被告に貸与して、同被告の運転の練習を助け、その結果、同被告において過失により本件事故を発生させたのであるから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

(四)  被告木田勝一、同木田タケ子は、被告木田正勝の父母であり、当時一六歳の同被告に加害車両を買い与えており、同被告が友人らとバイクの運転練習をするかもしれないことを予見していたのであるから、かかる場合、親権者としては、未成年者である同被告に対し、自ら交通法規を遵守するばかりでなく、前記のごとく事故発生の危険が大きい情況の下で友人が加害車両の運転練習することを差し控えさせるなどして、事故の発生を未然に防止すべき義務を尽すよう指導監督すべき注意義務があるのに、これを怠り、右指導監督を尽さなかつたため、同被告において被告沼山悌二郎に対し前記のような行為に及び、その結果、同被告が過失により本件事故を発生させたのであるから、いずれも不法行為者として民法七〇九条の責任。

三  損害

原告五十島達男は、本件事故により左大腿骨開放骨折、左鎖骨・下腿骨骨折、頭部打撲擦過創、左肘部・右下腿擦過創、左大腿部火傷の傷害を負い、その治療のため事故当日の昭和四七年七月五日から一〇月五日まで稲城市立病院に入院し、同月二一日から昭和四八年三月三日まで同病院に通院した。

これに伴なう原告らの損害は次のとおりである。

(一)  原告五十島達男の損害

右傷害によつて同原告が受けた精神的苦痛を慰藉すべき額は八〇万円が相当である。

(二)  原告五十島禊四郎の損害

同原告は、当時三歳の原告五十島達男の父として、前記入院中の雑費四万五〇〇〇円を支出し、同額の損害を受けた。

(三)  原告五十島千代子の損害

同原告は、原告五十島達男の母であるが、前記入院中同原告の付添看護にあたり、一八万円相当の損害を受けた。

四  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告五十島達男は、同原告の過失を考慮して慰藉料八〇万円のうちその七〇パーセントに相当する五六万円、原告五十島禊四郎は入院雑費四万五〇〇〇円のうち前同様の趣旨からその七〇パーセントに相当する三万一五〇〇円、原告五十島千代子は付添費一八万円のうち前同様の趣旨からその七〇パーセントに相当する一二万六〇〇〇円およびこれらに対する昭和四八年二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、「原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として

第一項(事故の発生)は認める。

第二項(責任原因)の(一)(被告沼山悌二郎の責任)は否認する。

本件事故は、後記のとおり、原告五十島達男が駐車車両のかげから急に道路に飛び出したために発生したものであつて、同被告には本件事故の発生につき過失はない。

同(二)(被告沼山智興、同沼山優美子の責任)のうち、同被告らが被告沼山悌二郎の父母であり、同被告が運転免許を持つていることを知つていたこと、同被告が当時一六歳であつたことは認めるが、その余は否認する。

同(三)(被告木田正勝の責任)の1(運行供用者責任)は認めるが、2(不法行為者責任)は否認する。

同(四)(被告木田勝一、同木田タケ子の責任)のうち、同被告らが被告木田正勝の父母であり、同被告が当時一六歳で、加害車両を保有していたことは認めるが、その余は否認する。

第三項(損害)のうち、傷害の内容は不知。入院の事実は認めるが、通院の事実は不知。その余は争う。

と述べ、抗弁として

一  過失相殺

被告沼山悌二郎、同木田正勝は当時府中工業高校二年生であつたが、事故当日、訴外梶野朝春、同上和田悟とともにバイクの運転を練習するため、加害車両ほか一台のバイクで本件道路に集合した。

右道路は幅員五・八メートルの東西に通ずる道路で、南側が多摩川土手に接し、事故現場の北側は空地に接している。

被告沼山悌二郎は、加害車両を運転し、事故現場の西方から東進中、時速二〇ないし三〇キロメートルで右現場の約五メートル手前に差しかかつたところ、道路の右端に駐車中のグロリアのかげから原告五十島達男が道路上に飛出するのを発見し、同時にブレーキをかけるとともにハンドルを左にきつたが、自車の直前だつたので、衝突を回避することができなかつた。

事故発生の状況は以上のとおのであり、右空地で三、四人の幼児が遊んでいることは分つていたが、一応有刺鉄線で囲われているので、まさか同人らが道路に飛出すとは考えられず、右空地内の駐車車両およびグロリアに遮ぎられて、背の低い同原告がそのかげから飛出すまで同被告にはこれを発見することができず、発見したときには事故を防ぐ手段がなかつたのであつて、本件事故は、同原告の過失およびその両親である原告五十島禊四郎、同千代子の監督義務違反の過失によつて発生したものである。

よつて、被告らは賠償すべき損害額の算定につき過失相殺を主張する。

なお、被告らは原告五十島達男の治療費として三八万四八七三円を支払済みである。

二  消滅時効

原告らの本訴提起は昭和五〇年一一月二七日であり、原告らが本件事故の損害および加害者を知つた昭和四七年七月五日からすでに三年を経過してなされているから、その間に中断事由の存しない原告らの被告沼山悌二郎に対する各損害賠償請求権および原告五十島千代子の被告ら全員に対する各損害賠償請求権は時効によつて消滅しており、被告らは本件口頭弁論(前者につき昭和五一年四月五日、後者につき同年五月三一日)において右時効を援用した。

と述べた。

原告ら訴訟代理人は、抗弁に対する答弁として

第一項(過失相殺)のうち、原告五十島達男に過失があつたことは認めるが、その程度は三〇パーセントを超えるものではない。

被告らによる治療費の支払は認める。

第二項(消滅時効)のうち、原告らが、事故当日である昭和四七年七月五日、本件事故の損害および加害者を知つたことは認める。

と述べ、再抗弁として

原告五十島達男、同五十島禊四郎は、(1)いずれも昭和五〇年七月三日到達の書面で被告沼山智興、同沼山優美子に対し、(2)同年七月四日到達の書面で被告木田正勝の法定代理人である被告木田勝一、同木田タケ子に対し、(3)いずれも同日到達の書面で被告木田勝一、同木田タケ子本人に対し、それぞれ本件損害賠償債務の履行を催告した。

しかして、右原告両名は被告沼山悌二郎に対し特段の催告はしていないが、同被告の親権者である被告沼山智興、同沼山優美子に対し、被告沼山悌二郎を加害者とする損害賠償債務の履行を催告した以上、右催告は同被告に対する催告と同視しうる。

また、原告五十島千代子は被告らに対し特段の催告はしていないが、同原告が本訴において請求する付添費相当の損害については、原告五十島達男、同五十島禊四郎の右催告に包含されており、これは原告五十島千代子から被告らに対する請求についても時効中断の効果を与えているものというべきである。

よつて、その後六か月以内になされた本訴提起により消滅時効は中断された。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、再抗弁に対する答弁として

原告ら主張の(1)ないし(3)の各催告があつたことは認めるが、その余は争う。

原告らの主張する法律上の見解は、厳格に法定された時効中断の要件を無視するものである。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  事故の発生

請求原因第一項記載の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告沼山悌二郎の責任

証人上和田悟の証言およびこれにより真正なものと認められる乙第一号証、証人五十島利昭の証言および被告沼山悌二郎本人尋問の結果によると、本件道路は、幅員約五・八メートルの東西に通ずる舗装道路で、南側が多摩川の土手に接し、北側には原告らの住居など人家がならんでいるが、事故現場の北側は空地になつていること、被告沼山悌二郎、同木田正勝は当時府中工業高校二年生であつたが、事故当日、訴外の友人二名とともに、バイクの運転練習ををするため、一方が行止りになつていて交通量の少ない本件道路に集合したこと、同被告らが練習を開始した当時、右空地で幼児数名が遊んでおり、同被告らはそのことを認識していたこと、右空地と本件道路との境は、有刺鉄線で区画されていたが、その一部には人が自由に通行できる出入口があつたこと、本件事故は、右出入口先の本件道路上で発生したものであるが、当時、右出入口の直ぐ東側の本件道路脇と右空地内に車両が一台づつ駐車されており、さらにその東側には道路ぞいに人家の塀があるため、本件道路の東方から事故現場付近に差しかかつた際、右出入口付近の見とおしは困雑であつたこと、かかる状況のもとで、まず被告沼山悌二郎が、被告木田正勝から加害車両を借りて運転練習を開始し、一旦東進した後、Uターンして時速二〇ないし三〇キロメートルで事故現場に差しかかつたこと、被告沼山悌二郎は、右のとおり空地で幼児が遊んでいることは事前に認識していたが、右有刺鉄線による囲いに出入口があることには気付いておらず、幼児が道路に進出することは念頭になかつたため、右駐車車両のかげになる右出入口付近の様子に注意を払うことなく、漫然同一速度で進行したため、空地で遊んでいた幼児の一人である原告五十島達男(当時三歳)が右駐車車両のかげから進路前方の道路上に進出するのを発見した時には、同人との間隔はすでに約五メートルに迫つており、急ブレーキをかけるとともに左にハンドルを切つたが及ばず、道路中央付近で自車の前部を同原告に衝突させたこと、同原告は、空地から土手の方へ行くため本件道路を横断しようとしたものであるが、その際駐車車両のため見とおしの悪い左方の安全を確認しないで、右車両のかげから小走りに道路に進出したこと、当時、被告沼山悌二郎を除く三人の仲間のうち、被告木田正勝は事故現場の西方でもう一台のバイクに乗つており、他の二人は土手で待機していたが、いずれも原告五十島達男ら幼児の動静に特に注意を払つていなかつたことが認められる。

以上の事実によると、被告沼山悌二郎らは、交通量の少ない本件道路を特に選び、四人が二台のバイクを使つて運転の練習をしていたのであるが、公道を右のような目的に使用する以上は、事前に周囲の状況を十分認識し、安全の確認に万全を期すべきであつて、特に、隣接の空地で幼児が遊んでおり、その空地から道路に出る出入口付近の見とおしが悪いため、幼児が急に進路に進出する治それのある本件のような状況のもとでは、見とおしの悪い場所に差しかかつた時は必ず徐行するか、さもなければ、待機中の友人に安全の確認を依頼し、その指示に従つて走行すべき注意義務がある。

しかるに、被告沼山悌二郎は、右注意義務を怠り、前記駐車車両の横を通過するにあたり漫然時速二〇ないし三〇キロメートルで進行したため、原告五十島達男を発見した時には、すでに衝突を回避する措置を講ずることができないほど至近距離に迫つていたものであつて、本件事故の発生につき徐行義務違反の過失があつたことは明らかである。

よつて、同被告は、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(二)  被告木田正勝の責任

被告木田正勝が加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたことは原告らと同被告との間で争いがない。

よつて、同被告は、自賠法三条により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(三)  その余の被告らの責任

被告沼山智興、同沼山優美子、同木田勝一、同木田タケ子の各不法行為責任は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

三  損害

原告五十島達男が本件事故による傷害の治療のため昭和四七年七月五日から同年一〇月五日まで稲城市立病院に入院したことは、当事者間に争いがなく、原告五十島禊四郎本人尋間の結果およびこれにより真正なものと認められる甲第五号証、第八号証、第九号証の一ないし九によると、原告五十島達男は、本件事故により、左大腿骨開放骨折、左鎖骨・下腿骨骨折、頭部打撲擦過創、左肘部・右下腿擦過創、左大腿部火傷の傷害を負い、右病院を退院後、昭和四七年一〇月二一日から昭和四八年三月三日まで同病院で通院治療を受けたこと、右傷害の後遺症は残つていないことが認められる。

そこで、原告らの損害について具体的に判断する。

(一)  原告五十島達男の損害

1  治療費(請求外)

前記傷害による原告五十島達男の治療費として三八万四八七三円を要したことは、当事者間に争いがない。

2  過失相殺

前記二の(一)の認定事実によると、本件事故の発生について、原告五十島達男にも、左方の安全を確認しないで本件道路を横断しようとした不注意な行動があつたことは明らかであるから、原告らの損害額を算定するにあたりこれを斟酌すべきところ、その程度は、被告沼山悌二郎の前記過失の内容その他諸般の事情に鑑み、三〇パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、右治療費相当の損害のうち同原告において賠償を請求しうべき金額は二六万九四一一円となる。

3  慰藉料

原告五十島達男が前記傷害を負つたことによる精神的苦痛を慰藉すべき額は、諸般の事情に鑑み、四五万円と認めるのが相当である。

4  損害の填補

被告らが前記治療費三八万四八七三円を支払つたことは当事者間に争いがないので、以上の合計七一万九四一一円からこれを控除すると、原告五十島達男の損害は残額三三万四五三八円となる。

(二)  原告五十島禊四郎の損害

原告五十島達男の前記入院中、同原告の父である原告五十島禊四郎が入院雑費として一日三〇〇円の割合による九三日分合計二万七九〇〇円を支出し、同額の損害を受けたことは経験則に照し是認できるが、これを超える部分については、同原告本人尋問の結果だけでは証明が十分とはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そこで、右損害について前記の割合に従つてこれを過失相殺すると、同原告において賠償を請求しうべき金額は一万九五三〇円となる。

(三)  原告五十島千代子の損害

原告五十島禊四郎本人尋問の結果によると、原告五十島達男の前記入院期間中、同原告の母である原告五十島千代子が付添看護にあたつたことが認められ、これによる同原告の損害は、一日一五〇〇円の割合による九三日分合計一三万九五〇〇円と認めるのが相当である。

そこで、右損害について前記の割合に従つてこれを過失相殺すると、同原告において賠償を請求しうべき金額は九万七六五〇円となる。

四  消滅時効

(一)  原告らが本件事故の損害および加害者を事故当日の昭和四七年七月五日に知つたことは当事者間に争いがなく、その時から三年を経過した昭和五〇年一一月二七日に本訴が提起され、かつ、被告沼山悌二郎、同木田正勝が主張にかかる時効をそれぞれ本件口頭弁論において援用したことは、当裁判所に顕著な事実である。

(二)  そこで、原告ら主張の時効中断事由の有無について判断する。

1  原告五十島千代子を除くその余の原告両名が、(1)いずれも昭和五〇年七月三日到達の書面で被告沼山智興本人、同沼山優美子本人に対し、(2)同年七月四日到達の書面で被告木田正勝の法定代理人である被告木田勝一、同木田タケ子に対し、(3)いずれも同日到達の書面で被告木田勝一本人、同木田タケ子本人に対し、それぞれ本件事故による損害賠償債務の履行を催告したことは、当事者間に争いがない。

2  ところで、被告沼山悌二郎に関する関係であるが、同被告は、本件事故発生時も右催告時もいまだ未成年の学生であり、両親である被告沼山智興、同沼山優美子と生活をともにしており、また、被告木田正勝とは、高校の同級生で、前記のとおり、一緒にバイクの運転を練習するに際し、事故現場で同被告から加害車両を借り受けて運転中本件事故を発生させたものであつて、単に友人というだけではなく、同一場所で共通の目的を遂げるために加害車両の貸借をした直接の当事者である。

そこで、右のような事実を前提にして考えるに、不法行為に基づく複数の損害賠償債務は、不真正連帯債務の関係にあるといわれ、真正な連帯債務に関する民法の各規定の準用について議論のあるところであるが、少なくとも、本件のごとく人的な結びつきの強い対等な当事者間の損害賠償債務については、連帯債務に準ずるものとして、民法四三四条に関する限りこれを準用し、右当事者の一人に対する履行の請求は他の者に対してもその効力を生ずるものと解するのが相当である。

そうだとすると、原告らが本件事故の損害および加害者を知つた時から三年を経過する前になされた被告沼山智興本人、同沼山優美子本人、同木田正勝に対する前記催告は、いずれも被告沼山悌二郎に対してもその効力を生じ、その後六か月以内に提起された本訴により、同被告の債務に関する時効は確定的に中断したものといえる。

なお、被告沼山智興、同沼山優美子の責任は本訴において否定されたが、これによつて前記催告の効力そのものが失効することはないものと解するのが相当である。

3  次に、原告五十島千代子に関する関係であるが、交通事故によつて受傷した未成年の被害者が、その治療のため入院し、その間右被害者に対し扶養義務を負う者が付添看護にあたつた場合、これに伴なう付添費相当の損害については、被害者本人がその賠償を請求することもできるし、また、付添にあたつた者が自ら請求権を行使することもできるのであつて、その相互の関係は不可分債権に準ずるものといえるから、民法四二九条二項により、一方がなした請求は絶対的効力を生ずるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、成立に争いない甲第一〇ないし第一三号証の各一、第一四、第一五号によると、前記の各催告にあつては、直接の被害者である原告五十島達男が右損害の賠償を請求していることが認められるので、右催告は原告五十島千代子の右損害賠償請求権についてもその効力を生じ、その後六か月以内に提起された本訴により、同原告と被告沼山悌二郎、同木田正勝との間の債務に関する時効も確定的に中断したものといえる。

よつて、同被告ら主張の時効の抗弁はいずれも採用できない。

五  結論

以上の理由により、原告らの本訴請求は、被告沼山悌二郎、同木田正勝各自に対し、原告五十島達男が三三万四五三八円、原告五十島禊四郎が一万九五三〇円、原告五十島千代子が九万七六五〇円およびこれらに対する事故発生後である昭和四八年二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、右被告らに対するその余の請求およびその余の被告らに対する請求は失当であるから棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小長光馨一)

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